CGRP製剤と高血圧症

Neurology, October 25, 2022; 99 (17)

Blood Pressure in Patients With Migraine Treated With Monoclonal Anti-CGRP (Receptor) Antibodies

『CGRP製剤は高血圧症になるか?』

の前向きフォローアップ研究

 

まず初めに、CGRP3剤のおさらい

  • エレヌマブ(アイモビーグ®︎)は、CGRP受容体抗体
  • フレマネズマブ(アジョビ®︎)は、CGRP抗体
  • ガルカネズマブ(エムカルディ®︎)は、CGRP抗体(今回出番なし)
--Back ground--
  • CGRPは血管拡張作用を要し、CGRP製剤は血圧を上昇させる(機序的に)
  • 最近、エレヌマブに関する市販後調査で、血圧上がるよとFDAにチクられている
  • よって、エレヌマブとフレマネズマブを使用したら血圧上昇するのか調べた
--今回のPICO--
Patient
  • 細かいのは抜きにして、片頭痛の患者
Intervention
エレヌマブ or フレマネズマブを使用
  • エレヌマブ 70 mg or 140mg を 4週間毎
  • フレマネズマブ 225 mg を 4週間毎
Control
  • 片頭痛の患者
  • 予防薬と降圧薬内服なし
Outcome
以下の3つ
  1. 降圧薬が開始となった
  2. 140/90 mmHg以上となった
  3. ベースの血圧から、収縮期血圧20mmHg or 拡張期血圧10mmHg 上昇した

 

血圧測定の回数
  • 開始時と3ヶ月毎の測定(計5回)
統計
  • 血圧測定のデータは線形混合モデルが使用された
  • p 値は0.05で有意とした
  • IBM SPSS Statistics for Windows, version 25 を使用
  • 欠損データは、感度分析を使用した

 

--Results--
さあ、結果です。
 
まず、どんな患者か
  • 大体、同じような人を集めた
  • ランダム化してないけど

  • 女性が多い、85%
  • 平均年齢40歳ちょっと、思ってたより年齢高め
  • 慢性片頭痛の人、50%くらい
  • 月の頭痛日数・片頭痛日数、15日くらい、多いな
  • ベースの血圧少し高め、フレマネズマブ群で高いのは、背景から考慮?

 

フローチャート

最終的に最後まで血圧測定全てできて、降圧薬開始されてない人は、96人

  • 測定できなかったのは、コロナの関係で通院できなかった人がいたとのこと

 

エレヌマブとフレネズマブ開始した人達の血圧の推移

収縮期血圧             拡張期血圧
T0(ベースライン)         T0(ベースライン)
T1:+5.0 mmHg            T1:+3.3 mmHg
T2:+4.9 mmHg           T2:+3.2 mmHg
T3:+4.7 mmHg           T3:+2.5 mmHg
T4:+5.2 mmHg           T4:+3.5 mmHg
 

『いずれも有意差あって血圧上昇しました。』

  • CGRP製剤開始後、最初の3ヶ月後から血圧高値となる。→ FDAの報告でも、エレヌマブ投与最初の1週間で高血圧が見られる。まあ当然と言えば当然のような。
  • ちなみに血圧が上昇したらずっと血圧高いまま。代償はされないのか。

 

薬剤別の結果(謂わゆる、サブグループ解析)

エレヌマブ群
収縮期血圧           拡張期血圧
T0(ベースライン)      T0(ベースライン)
T1:+5.8 mmHg        T1:+5.4 mmHg
T2:+5.0 mmHg        T2:+4.9 mmHg
T3:+7.6 mmHg                       T3:+5.8 mmHg
T4:+9.1 mmHg                       T4:+6.3 mmHg
いずれも有意差あり
 
フレマネズマブ群
収縮期血圧             拡張期血圧
T0(ベースラインとの比較)     T0(ベースラインとの比較)
T1:+3.8 mmHg ※           T1:+0.8 mmHg
T2:+4.6 mmHg ※.                                T2:+0.8 mmHg
T3:+1.6 mmHg                                     T3:-1.4 mmHg
T4:+0.9 mmHg                                     T4:-0.02 mmHg
※のみ有意差あり
 
『エレヌマブ群が有意に血圧を上昇させている』
 
降圧薬を開始した人達ってどんな人達?

合計9名が降圧薬開始に
CGRP開始前から高血圧があった人達
  • エレヌマブ群が1名
  • フレマネズマブ群が4名

CGRP開始前には高血圧がなかった人達

  • エレヌマブ群が4名(3.7%)
  • フレマネズマブ群が0名

最初から高血圧だった人達のフレマネズマブ群多くない?

→エレヌマブは血圧が上がるとわかっていたから、故意的にフレマネズマブにした?

 

収縮期血圧 140 mmHg and/or 拡張期血圧 90 mmHg以上 となった患者
  • 53/196名(27%)
    • エレヌマブ 33/109名(30%)
    • フレマネズマブ 20/87名(23%)

 

収縮期血圧 20 mmHg 以上上昇 and/or 拡張期血圧 10 mmHg以上 となった患者
  • 76/196名(39%)
    • エレヌマブ 52/109名(48%)
    • フレマネズマブ 24/87名(28%)

やっぱりエレヌマブ群が血圧上昇傾向

 

対照群(109名)
 有意差なし、血圧上昇なし
 
感度分析を用いたら?
 
収縮期血圧           拡張期血圧
T0(ベースライン)      T0(ベースライン)
T1:+5.3 mmHg         T1:+3.2 mmHg
T2:+4.3 mmHg                       T2:+2.7 mmHg
T3:+4.3 mmHg                       T3:+2.1 mmHg
T4:+3.7 mmHg                        T4:+2.5 mmHg
 
『感度分析を用いてもいずれも有意差あり』
ちなみに感度分析とは、
欠損したデータに適当な値をランダムに何パターンか入力して(例えばT1を測定できていない人に、120とか140とか160とか)、有意差を見るもの
 
--Discussion--
  • エレヌマブ群がフレマネズマブ群と比較し、血圧上昇傾向、なぜ?
    • CGRP経路の阻害作用がエレヌマブの方が強い可能性あり
    • エレヌマブはCGRP受容体抗体であるので、その他のCGRP family を介する経路が影響した可能性あり
 
--Limitation--
  • フレマネズマブ群の統計学的な検出力が不足していたかもしれない(サブグループ解析だからね)
  • エレヌマブ群とフレマネズマブ群に割り付ける際にランダム化していない

 

--私見--
  • CGRP製剤導入したら、血圧に気をつけよう
  • 高血圧の患者では、わざわざエレヌマブを使用しなくても良いんじゃない?

 

以上です。終わり。